昨年の11月初旬に南シナ海にある中国の人工島の周辺の空域を飛行して話題となったアメリカ空軍のB-52爆撃機。一昨年の秋にも中国の一方的な防空識別圏設定後にその中を悠々と飛行して注目を集めました。米空軍の中では大ベテランとなるこのB-52についてみていきます。
B-52はアメリカ空軍によって運用されている戦略爆撃機であり、運用開始は1955年という「化け物」のような機体です。初飛行からは既に60年以上経過した今も米軍の主力爆撃機の一つとして運用されています。そのため親子2代ともにB-52のパイロットを経験したという家族も珍しくありません。700機以上が生産された名機ですが退役した機体も多く、現在は58機を運用しています(予備機として18機待機)。しかし、今後も改修を施しながらもなんと2045年まで運用される予定であり、3世代にわたるパイロット一家が出現しそうです(祖父、父、孫が全員B-52のパイロット経験者という状況)。
これだけ長年運用されるのはB-52が高い安定性と信頼性を誇る機体であるからです。日本で有名なB-29の延長線上にある戦略爆撃機ですが、長大な航続距離と滞空時間、亜音速の速度、そして多種多様な爆弾を大量に搭載可能な弾倉は90年間も運用される予定となった所以です。ちなみに愛称は成層圏の要塞「ストラスフォートレス(Stratofortress)」です。
○性能:B-52ストラスフォートレス
全長:48.5m
幅:最大56.4m
高さ:12.4m
最大搭載重量:31,500kg
最大速度:時速1,052km
航続距離:16,000km
実用上昇限度:16,765m
上記の画像のようにB-52は様々な種類の爆弾を大量に搭載して投下することが可能であり、その柔軟性は多様な目標に対応できるため、安定して使用されています。元々は冷戦期に敵(主にソ連)の領土に核爆弾を投下するための任務を想定しており、長大な航続距離と滞空時間から大陸間爆撃機として運用されていました。具体的には先制攻撃による壊滅を回避するためにソ連周辺の空域に常時滞空していつでも核爆弾で報復できるようにしていました。その後は「核の3本柱」(戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル)の一つとして冷戦期の核戦略の一翼を担いました。
しかし、常時核爆弾を積んだまま空を遊弋する任務は「重大な事故」の可能性を常に秘めていました。1966年にB-52と空中給油機がスペイン上空で衝突して墜落。4発の核爆弾が地上に落下して危うく取り返しのつかない大惨事となるところでした。幸い安全装置がギリギリのところで衝撃に耐えたため、核爆発だけはなんとか免れたという状況でした。しかし、核物質は飛散して周辺の土地を長年にわたって汚染しています(パロマレス米軍機墜落事故)。
この事故以降は米空軍も常時核爆弾を搭載したままでの飛行を止めましたが、1968年にも核爆弾4発を積んだB-52がグリ-ンランドの海氷に墜落するという事故が起き、放射能汚染を起こした上に1発が未発見・未回収とされています。1961年にアメリカ国内で起きた墜落事故(この時はあとスイッチ一つの作動で起爆していた可能性が高い)を含めるとB-52はこのような間一髪の核事故を冷戦期に3回引き起こしています。
幸い、B-52は冷戦下の本来の任務を遂行することはありませんでしたが、ベトナム戦争や湾岸戦争などの実戦には投入されています。ベトナム戦争では有名な北爆で北ベトナムの各地を絨毯爆撃によって破壊し、「死の鳥」と呼ばれました。冷戦後は湾岸戦争やアフガニスタン戦争、イラク戦争などに投入されて、誘導爆弾に加えて巡航ミサイルも搭載して精密爆撃を敢行しています。
B-52はその恐ろしいイメージから相手を威圧する任務にも投入されることがあり、近年は中国に対してそのような飛行任務を実施しているとされています。アメリカ側は示威行為や威圧飛行という側面を否定していますが、実際にB-52が飛行するとそういうふうに受け取られても仕方ないでしょう。2014年秋に中国が東シナ海に自国の防空識別圏を突如一方的に設定したときはこれを認めない姿勢を示すかのように2機のB-52がその中を飛行しました。さらに、昨年秋にアメリカ海軍が「航行の自由作戦」を行った後に2機のB-52が南シナ海の中国の人工島周辺を飛行しました。
このように中国の一方的な現状変更を許さない、認めないという意志を示すかのようにB-52は飛行任務を遂行しています。航行の自由と同様に国際空域であることを強調して中国側の主張を退けるデモンストレーションといえるでしょう。アジア太平洋ではグアムの空軍基地に展開しているB-52は今後もこうした飛行を継続していくことでしょう。
さて、余談ですが、日本でB-52をネットで検索すると「空母」という単語が一緒に出てくることが多いです。これは2001年の参議院予算委員会で当時社民党の党首であった福島瑞穂議員が自衛隊の活動範囲が「戦闘地域」まで及んでいるという質問の中で出てきた逸話です。この中で福島議員はアラビア海においてB-52が艦船から飛び立って直接攻撃するという旨の発言をしています。本人の勘違いでしょうが、B-52の巨体は空母を含む艦船にはもちろん搭載できません。しかし、これがネットで恰好のネタとなり、下のようなコラ画像が出回りました笑。
これはさすがに無理でしょうな。。。
○画像引用元:http://www.af.mil/ (アメリカ空軍HP)