[地政学とは何か?]マッキンダー理論,マハン,日本,リスク,入門?

近年よく耳にしたり、目にする言葉で「地政学」というものがあります。「地政学的リスク」と強調する本が並んでいたり、新聞やネットの記事でも推していますよね。しかし、地政学とは元々どういうものなのでしょうか?日本の学校では教えない地政学ですが、国際情勢を理解する上では必要です。

地政学とは何か?

地政学とは名前から推測できるように地理と深い関係があります。分かりやすく言えば、地理がその国や地域にどのような政治的・経済的影響を与えるかを探求する学問です。つまり、地理的環境が歴史を通してどのような影響を与えてきたかを考察し、それから分かる政治的・経済的教訓を考えます。

例えば、地図を眺めてある地域に目をつけたとしましょう。その地域には、陸地と陸地の間に存在するA海峡があります。A海峡は二つの海をが交わる場所にあり、海上交易路を結んでいます。これだけでA海峡がかなり重要であることが分かりますね。

となると、A海峡を巡ってこの地域では昔から争奪戦が行われ、A海峡を手中に収めたものがこの地域で経済的に繁栄したことが推測できます。そして、A海峡周辺に元々あった国は海峡を狙う強国に滅ぼされる危険性が高かったことも分かります。

今の例は簡単に説明したものですが、地政学は地理、歴史、政治、軍事、経済のみならず、文化、宗教なども含めた見地で考察される視野の広い学問です。

 

地政学の誕生と衰退

「地政学」という言葉はスウェーデンの学者であったルドルフ・チェーレンによって誕生しました。しかし、その前に19世紀のドイツ人学者であるフリードリヒ・ラッツェルが学問としての地政学を大きく発展させました。

ラッツェルは国家を一種の生命体として捉えます。そして、生き物が生存のために食料を獲得したり、そのための縄張りを拡大するように国家も領土と資源の獲得を目指して膨張すると唱えました。国家は弱い国を含む領土を獲得し、同胞民族や資源を吸収することで興亡激しい世界で繁栄を得られるとしました。つまり、領土拡大は国力増大のために必要であり、生存する上で自然な方向であるとしました。言うまでもなく、これは後に帝国主義政策を正当化する根拠となりました。

さて、このようにヨーロッパデ生まれた地政学はドイツで学問として急速に体系化して発展します。そして、ドイツ語でGeopolitik(ゲオポリティーク)、英語でGeopoliticsとなった地政学はあのアドルフ・ヒトラーに大きな影響を与えます。

地政学はヒトラーに利用される(引用:Wikipedia)

第一次世界大戦で敗れたドイツは海外植民地を全て失い、本土も1/7を喪失します。ドイツ帝国が築き上げた国力を失ったドイツでカール・ハウスホーファーという学者が現れます。ハウスホーファーはラッツェルの考えを引き継ぎ、「生存圏」という概念を提唱します。

曰く、国家はエネルギーや食糧を自給自足するために一定の「生存圏」を確保する必要があります。この国家の自給自足をアウタルキーと呼びます。ここまでは、ラッツェルの理論と似たようなものです。しかし、ハウスホーファーはさらに経済圏の構築を提唱します。これは必ずしも軍事力で領土併合を意味するものではなく、あくまで影響力を保持できる経済ブロックを指したものです。つまり、ヴェルサイユ条約で厳しく制限されたドイツが発展するには生存圏に加えて経済ブロックを形成するほかないと考えたのです。

その結果、エネルギーや食糧を確保するための生存圏を東欧に、経済ブロックはヨーロッパから中東、アフリカに求めました。そして、世界はいずれドイツ、日本、アメリカ、ソ連(ロシア)を中心とする4つのブロックに分かれると予想しました。

この生存圏や経済ブロックの考えにヒトラーが目をつけます。そして、ドイツ民族が生き抜くためには東欧をエネルギーや食糧の供給源とし、なおかつドイツ民族を植民しなければならないと唱えます。実際、ヒトラーはソ連に侵攻しており、そこに生存圏を作ろうと試みました。これは結局失敗しましたが、ヒトラーの行動にハウスホーファーの考えがある程度浸透していたのは間違いありません。

そのため、「地政学=ナチス的」というイメージが戦後広まり、地政学はタブー視されます。そのため、地政学(Geopolitics)という言葉自体も一般的には使われておらず、戦前と比べて廃れてしまいます。日本でも地政学を教えないのはこうした事情を鑑みてのことでしょう。しかし、地政学は戦略眼を養う上で必要なので結局は名前を変えたりしてアメリカでは学者や軍人、政治家の間で探求されてきました。

 

マッキンダーの理論

さて、地政学といえば「マッキンダー」が有名です。マッキンダーは19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したイギリスの学者であり、「ランドパワー理論」で知られています。この理論ではまずユーラシア大陸とアフリカ大陸を一つの世界島と見立てます。そして、世界島の内陸奥深くをハートランドと名付けます。

ハートランドは海からは接近がほぼ不可能であり、海洋国家の影響が及びにくい場所です。つまり、大陸国(陸軍国)であるランドパワーが力を増大させる基盤になります。ハートランドはロシアのウラル地方あたりが有力視されており、そこから「内側のクレセント」と「外側のクレセント」という半円型の地域が海に向かってそれぞれあります。そして、大陸国のランドパワーと海洋国のシーパワーは内側のクレセントを巡って攻防を繰り広げるとしました。後に、アメリカのニコラス・スパイクマンはこの内側のクレセントをリムランドと名付けました。

大雑把な概念図

 

このような概念の下、マッキンダーは以下のポイントを唱えたことで有名です。

  1. 東欧を制した者がハートランドを制す。
  2. ハートランドを制した者が世界島を制す。
  3. 世界島を制した者が世界を制す。

これは明らかにドイツを想定した言葉ですが、後のナチスドイツの行動やソ連の東欧支配を見るとあながち間違いとは言えないでしょう。

マッキンダーは世界島に強大な大陸勢力が出現すれば、各地の内海や海上貿易港が落ち、やがて世界の海が閉鎖されると恐れました。自由かつ安全な海上交通を前提に繁栄するシーパワーにとっては悪夢のような状況であり、これを阻止するのが責務であると説きました。

点と線(港と海上交通路)で抑えるシーパワーに対して、ランドパワーは軍事力を使って面で抑える特徴があると言われています。そのため、海に出てもそうした傾向になりやすく、実際に中国も南シナ海を自国の内海にしようとしています。そのため、マッキンダーはシーパワーが連携して中国(当時)やインドをハートランドの魔の手から守らなければならないとしました。つまり、シーパワーが影響力を行使して内側のクレセント(リムランド)に干渉して、ランドパワーを封じ込めるのです。

これは後にスパイクマンによって受け継がれて、リムランド理論に発展します。スパイクマンは内側のクレセント、つまりリムランドをソ連の征服から守る必要があり、アメリカはこれらの国々と同盟を結んで基地を置くべきとしました。アメリカが中心となって連携してソ連の伸長を阻止するこの考えは封じ込め政策となりました。

 

マハンの理論

マッキンダーと並んで有名なのがアメリカのマハンです。著作「海上権力史観」で名を挙げた彼はシーパワーの優位性を唱えました。曰く、世界を制覇する大国になるには強大な海軍力を持ったシーパワーでなければならず、各地の重要な海上拠点を支配下に収めるべきとしました。

また、ランドパワーは同時にシーパワーにはなれず、この二つの性質は両立できないと主張します。そして、隣国との争いに常に備えなければならないランドパワーに比べて、シーパワーは海上交通を抑えて貿易を支配できるため優位に立てるとしました。

確かに、ランドパワーであったソ連は1970年代に海軍力の増強にかなりの力を入れましたが、結局は破綻しました。マハン曰く、シーパワーになるにはただ単に海軍にお金をかけるだけではダメです。具体的には、地理的位置、領土、人口、国民の性質、統治機構の性質などが重要であり、平時・戦時問わずシーレーンや各地の港を保護・維持する能力が必要です。

 

地政学的リスクとは?

ここまで読んで、複雑な専門用語があるなどして混乱したことでしょう。しかし、最近よく言われる地政学的リスクはもっとシンプルに考えても良いでしょう。

例えば、遠方にあるA国とビジネスをしたいとしましょう。A国から特産品を輸入して日本まで運びたいと考えます。しかし、それを運ぶには必ずB海峡を通らなければなりません。B海峡は昔から周辺国が入り乱れて争った地であり、今はそこを治める国の統治機構が不安定です。そのため、海賊が出没したり、周辺の独裁国との小競り合いがあります。

この場合はA国が安定していても、B海峡で地政学的リスクがあります。ちなみに、海上交通における戦略的要衝をチョークポイントと呼びます。有名なのは、パナマ・スエズ運河、ジブラルタル海峡、マラッカ海峡などですね。

 

北東アジアも地政学的リスクが高い地域

 

さらに、具体例としてウクライナを挙げます。ウクライナは旧ソ連の一員であり、黒海に面した地です。そして、穀倉地帯でもあるため、歴史を通じて争奪の地となりました。そこでビジネスを始めたとしても、西側諸国とロシアの対立に巻き込まれて、現在の有様です。

他にも、分かりやすい例として現在の北東アジアがあります。北朝鮮という何をしでかすか分からない国があり、朝鮮半島で戦争再開の可能性が常にあります。そうなると、韓国はもちろんのこと、外国から見れば隣に位置する日本も地政学リスクがあります。

このように、地理的環境とそれが歴史を通じてどのように政治的影響を与えてきたかを見れば、地政学的リスクがある程度理解できます。

 

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